メンバーが同じ目標を目指し、お互いを活かし合える組織に向けてー精神科訪問看護コモレビの行動指針づくり
メンタルケアサービス「コモレビ」を運営する株式会社ソシエテの代表の森本真輔です。
「行動指針」というと、みなさんはどういったものをイメージするでしょうか。
スタッフの一人に以前働いていた職場の行動指針について尋ねたところ、
「よく見えるところに掲げてあったけれど、それが日々自分の行動を決める際の指針になるまでは浸透していなかった」
と語ってくれました。みなさんの働く病院や施設にはどのような行動指針があって、どのように機能しているでしょうか。
ソシエテでは、行動指針として「Societe Guiding Principles(ソシエテ・ガイディング・プリンシプルズ:SGP)」を定めています。このSGPとはどういうものなのか、導入してみてどういう変化があったのかについて、今回はコモレビでの取り組みをお話します。
SGPとはミッションに近づくための行動指針
SGPは、コモレビの利用者さんによりよいサービスを提供するため、私たちが普段から心がけたい指針として導入しました。SGPをもとに判断し行動することで、ソシエテのミッション「どのような境遇のひとにも、尊厳をもって生きられる場所を」により近づいていけると私たちは考えています。具体的には以下の5つをSGPとして定めています。
- 尊厳を大切にする
利用者さんはもちろん、精神科領域にかかわるさまざまな人を「人」として大切にします。具体的には、利用者さんの家族、保健センターや病院のスタッフさん、ケースワーカーさん、就労移行支援のスタッフさん等、サービスを行う上でかかわる外部の人たちに対しても尊厳を大切にしてかかわります。また、コモレビのスタッフすなわち支援者もひとりの人間として尊厳を大切にします。
- 理想を追求する
長い歴史のある精神科医療で、現在実現されていないからと言って諦めたり、できない理由に囚われたりすることなく、「何か変えていけることはないか」「よりよいところにたどり着けないか」と理想を追求します。
業界全体のことも考えていきますし、コモレビとしてサービスが十分でないこともありますので、それぞれどうしたら変えていけるかを日々話し合ったり考えたりしていきます。
- よりはやく、より多くの人へ
「どのような境遇のひとにも」というミッションを掲げている以上、住んでいるエリアでコモレビのサービスを提供できないというのは、望ましい状態ではありません。現在は東京の23区、中でも西の方にサービスが限定されていますが、さまざまな地域、たとえば北海道から「うちの地域にもあったら」とお声をいただいています。
そうした中で、サービスとしての品質は保ちながら、それでもより多くの人にサービスを提供していきたいと考えています。コモレビのサービスがより大きなインパクトを持つことが社会全体を変えていくことにつながっていくと自負しています。
- 対話を続ける
ミッション実現のためにかかわるすべての方と対話を続けることを大切にしています。すぐには解決できない課題があったり、かかわり続けるなかで相手に言いにくいことも出てきたりしますが、ミッション実現のために必要である限り対話を続けようという姿勢を貫いています。
- みずからを高める
自分を磨き続けることで理想を追求できると考えています。学びを続けることや自分自身で内省を重ねることも含みます。ひとりひとりが常に変化し続けることで、よいサービスを実現していきたいと考えています。
どのようなタイミングでSGPに立ち戻るか
SGPは、日々の業務の中でひとりひとりが立ち戻り、判断や行動の指針とするという形で活用していますが、組織としてSGPを浸透させるために、いくつかの工夫をこらしています。
ひとつは、毎週土曜日の業務終了後のカンファレンスです。その最後の10分間で、SGPの5つの項目をもとに一週間の振り返りをしています。振り返りを通じて、その人がSGPの観点から今週がんばれたこと、今週うまくいかなかったことをシェアすることで、お互いの認識や価値観が擦り合っていく感覚があります。
また社内のコミュニケーションツールで、だれがどの指針を大切に行動していたかを共有し合うスペースを設けています。これは、お互いフィードバックを気軽にできるようにするための工夫です。
(社内コミュニケーションツール上では、SGPにちなんだスタンプも作りました)
SGPは日々の業務と密接につながっている
スタッフのみなさんはSGPをどのように捉えているのでしょうか。実際に二人のスタッフに尋ねたところ、次のような答えが返ってきました。
Aさん:「以前勤めていた病院では、行動指針は存在こそしていたものの、それを業務レベルに落とし込むことができていませんでした。そもそも落とし込もうと考える機会もなかったです。それに対して、コモレビではミッションを実現するために業務レベルで具体的にどうしたらいいかをSGPをもとに考えられるという具体性があります」
Bさん:「コモレビでは、行動指針をSGPとして言語化することで、普段からスタッフ間で共通言語として使うことができます。判断を迷ったときに考える軸にもなります。質の高い支援を利用者さんに届けるためにSGPが活きてきていると感じています」
私自身も、ついつい抽象的になりがちな理念と、日々の業務が密接につながっているのがコモレビの特徴だと感じています。
たとえば、コモレビでは利用者さんの主体性を大事にしていますが、中には「寂しいから毎日来てもらいたい」「来てくれるだけでいい」という方もいらっしゃいます。それも一つの訪問看護の使い方だとは思いますが、コモレビが利用できなくなったときにその方はどうなるんだろうと考えると、毎日訪問に行くことはその場しのぎにしかならないことがわかります。
このケースでは、尊厳を大切にしてよりよい支援を追求することを考えると、本人の寂しさの背景にあるものはなんだろうかと、訪問を使う目的について本人と対話を続けて、支援を組み立てていきました。
ほかにも、訪問する中で、看護師に対して攻撃的な言動をする利用者さんも時にはいらっしゃいます。その際、極端にいうとスタッフ側を被害者、利用者さんを加害者として訪問終了に持っていくこともできますが、コモレビでは決してそれはしないようにしています。できるだけ同じ地平に立って対話を続けることを心がけています。
攻撃的な行動は、ご本人が症状にすごく振り回されているということの現れです。つまり「困っている」んだという背景に想像力を働かせて支援していけたらと考えています。
SGPの5つの項目の中には、それぞれ緊張関係にあるものもあります。たとえば利用者さんとの対話を続けるなかで、スタッフが精神的に傷つくこともあります。この場合、「対話を続ける」と「尊厳を大切にする」が緊張関係にあります。
それに対して限りある資源のなかで何ができるか折り合いをつけていくために、常にみんなで議論しながら、それぞれの指針に対してどのような行動が必要なのか、最適解を追求しています。
役職にかかわらずSGPに沿って指摘し合える組織をめざして
SGPを導入することで、お互いの行動を肯定的に指摘し合ったり内省したりする文化が定着してきたと感じています。一方で、他者にフィードバックしていく点は、まだまだ課題があると思っていますし、これから浸透していく余地のある部分と考えています。
ミッションの実現のためにアサーティブに指摘し合うことを積み重ねていかねばと思っています。
たとえば、理想としては社長であるわたしに、だれでもフィードバックができるようになるべきだと考えています。SGPの前に役職は関係ありません。
入社して数カ月しか経っていない新入社員だろうと社長だろうと、SGPに沿っていればそれはすばらしいし、沿っていなければ是正しなければならない。いいこともそうでないこともミッション実現のために指摘し合えるようになるといいですね。
おわりに
以上のように、コモレビではSGPをはじめとした「対話」を重視したチームづくりを進めています。現在、人事制度の見直しも行っており、そちらについてもコラムがありますので、ぜひお読みください。
コモレビでは現在、共に働く仲間を募集しています。私たちと一緒に、利用者さんが「ありたい姿」に向けて一歩ずつ進んでいくのをサポートしてみませんか。採用情報の詳細はこちらをご覧ください。