【イベントレポート】睡眠がもたらす心の不調とは?精神科訪問看護における睡眠ケアの重要性
2026年9月、睡眠医学の専門家である志村哲祥先生をゲストにお迎えし、オンラインセミナーを開催しました。
当日は、「睡眠とメンタルヘルスの関係」についての専門的な講義から、訪問看護の現場で役立つ具体的なアプローチ、そして質疑応答まで、内容盛りだくさんのイベントとなりました。
1. 睡眠と脳のメカニズムについて
まず志村先生より、睡眠がメンタルヘルスに及ぼす影響と、その背後にある脳のメカニズムについてわかりやすくご解説いただきました。
脳も臓器の一つ——睡眠不足で起こる「感情の暴走」
脳も他の臓器と同じように、日々再生と破壊を繰り返しています。適切な睡眠をとることで神経細胞は成長しますが、睡眠不足やストレスが続くと脳の神経が摩耗していきます。
特に、不安や恐怖を司る「扁桃体(本能)」の暴走を抑える「前頭前野・海馬(理性・記憶)」は、睡眠不足のダメージを真っ先に受けます。ブレーキが効かなくなることで強い不安や抑うつ状態、感情の暴走が引き起こされるというメカニズムの解説を聞き、日頃のケアや関わりを振り返るきっかけとなりました。
子どもの目と「光」の危険性、発達障害(ASD/ADHD)との関連
また、小児期や発達障害における睡眠の特徴についても詳しく触れられました。
まず注目されたのが、大人の目と子どもの目の構造的な違いです。子どもの目の水晶体は非常に透明度が高いため、大人の約5〜10倍もの光を素通しで通してしまいます。そのため、大人にとっては「少し明るい程度」と感じる夜間の室内灯であっても、子どもの脳内では睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌が強力に抑制されてしまうというリスクがあります。
また、発達障害(ASD/ADHD)と睡眠障害の密接な関係についても解説がなされました。ASD特有の光や音に対する感覚過敏、あるいはADHDに見られる体内時計(メラトニン分泌のリズム)の遅れなどにより、不眠や昼夜逆転を引き起こしやすい傾向があります。
志村先生は、こうした影響を和らげるための具体的なステップとして、「夕方以降は部屋の照明を落とし、間接照明などのオレンジ色の暗い環境に整えること」、そして「朝はしっかりと太陽光を浴びせて体内時計をリセットすること」が、睡眠障害の予防と改善に向けた極めて重要な第一歩になるとお話いただきました。
2. 訪問看護の現場で実践する睡眠ケア
志村先生より普段の取り組みや知見をご共有いただいた後、コモレビナーシングステーションの管理者・谷澤、代表・森本を交えたパネルトークを行いました。
訪問看護だからこそ気づける「環境」と「生活習慣」
現場で不眠を訴える利用者さんの多くが、「夜遅くまでスマホを見ている」「15時以降もカフェインを過剰摂取している」「遮光カーテンがない」といった環境や習慣の課題を抱えています。
病院の外来とは異なり、「実際の生活空間に入り込める訪問看護だからこそ、根本的な環境調整や嗜好品のコントロールに直接アプローチできる」という点は、訪問看護ならではの強みであると感じました。
また、服薬管理についても「飲むタイミングの誤り」や「不適切な頓服」が翌日の持ち越しにつながっているケースが多く、看護師が正しくモニタリングし主治医へフィードバックすることが重要だと再認識しました。
「服薬管理」と「振り返り」が生む改善のサイクル
朝早い仕事になかなか起きられず短期離職を繰り返していた利用者さんの事例では、ご自宅での丁寧な確認を通じて、頓服薬を明け方の不適切な時間に服用していたことが判明。看護師が服薬のタイミングを正しく整えたことで翌朝への影響がなくなり、仕事を継続できるようになったエピソードが共有されました。
また、睡眠時間や日中の状態をアプリやノートでモニタリングし、「寝不足の翌日は感情が不安定になりやすい」「夜遅くのスマホ使用で眠りが浅くなる」といった傾向を利用者さん自身と共有することで、納得感を持った生活改善へつなげているアプローチも紹介されました。
3. 質疑応答セッション
質疑応答の時間では、参加者の皆様から非常にたくさんの質問が寄せられ、志村先生が一つ一つの疑問に丁寧かつ明確に回答してくださいました。
ここでは参加者からの質問を抜粋して記載いたします。
Q. 睡眠薬への「依存」や「耐性」を心配される利用者さんにはどう説明すればよいですか?
近年主流となっているオレキシン受容体拮抗薬などは、従来のような依存性や耐性がほとんどありません。「薬をやめたら元に戻るだけで、薬そのものに依存しているわけではない」という正しい知識を伝えることが安心につながります。
Q. ADHDやASDのお子さんの不眠や行動面への対応策は?
まずは「夜の光刺激を減らす」「15時以降のカフェインを控える」といった環境改善が基本です。また、ADHDの不注意や衝動性が、実は「睡眠時無呼吸症候群(鼻づまりや口呼吸)」の改善によって和らぐケースもあるため、睡眠中の呼吸状態にも注意が必要です。
Q. アルコールに頼って眠ろうとする方へはどうアプローチすべきですか?
飲酒と脳への影響(認知症リスクの上昇など)を具体的な数値で伝えるのが効果的です。一気にやめさせるのではなく、「休肝日を作る」「飲む量を少し減らす」など、脳がアルコールに晒される時間を少しずつ短くする提案から始めましょう。
おわりに
今回のイベントを通じて、メンタルヘルスケアにおける「睡眠習慣・環境の改善」という土台の重要性を改めて認識しました。
カウンセリングや服薬指導だけでなく、ご自宅という生活の現場に寄り添い、環境整備や生活リズム作りを共に伴走する「精神科訪問看護」の役割は今後ますます大きくなっていくと感じさせました。
参加者からの声
アンケートでは、大変多くの方から高評価や学びの声をいただきました。参加者から寄せられた感想の一部をご紹介します。
- 「明日から支援や生活で実践したい具体策が見つかった」 「15時以降のカフェインを控えたり、部屋の光の調整や遮光カーテンの活用など、すぐに提案できる実践的な知見が得られた」「生活習慣だけでなく、栄養面や自炊のサポートについても確認してみようと思った」など、具体的なアクションにつながったという声が多数寄せられました。
- 「子どもの発達・光の感度の違いに目からうろこ」 「大人の5〜10倍も子どもが光に過敏であることや、メラトニンとの関係がとても勉強になった」「昼間のブルーライトカット眼鏡が近視予防の観点からNGというお話には驚きました。子どもたちの就寝環境をさっそく見直してみたいです」といった気づきの感想も目立ちました。
- 「訪問看護という『生活の場に入り込む支援』の重要性を実感」 「生活の場に足を運ぶからこそ、嗜好品や環境の課題にアプローチできるのだと再認識できた」「薬の服用指導から生活環境の整備まで、訪問看護が担う柔軟な役割の大きさを知ることができて非常に有益だった」など、精神科訪問看護の価値を深掘りできたという温かいメッセージをいただきました。
今後もコモレビでは、様々なイベントを開催予定です。興味のあるテーマがございましたらぜひご参加いただけますと幸いです。