保健師の次のキャリア、転職先としての「メンタルケア」-精神科訪問看護ステーション「コモレビ」スタッフの経験を通して考える
「保健師として出会う方の症状が重く、『もっと早く支援できていたら、その方の回復がもっと早かったのではないか』ともどかしさを感じている」
「保健師としてのこれまでのキャリアを活かしつつ、精神科におけるケアの力を高められる転職先を探したい」
保健師として現場で働いている方の中には、保健師という職業を誇りに思いつつも、こうした葛藤やキャリアに関する悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私たち「コモレビ」は、精神疾患と付き合いながら就労を目指している方や現在ひきこもりがちの方など、さまざまなニーズを持った利用者さんに「対話を通じたメンタルケア」を提供している精神科訪問看護ステーションです。コモレビでは、多種多様な経歴を持つスタッフが働いており、中には保健師として働いた経験を活かし、現場で活躍しているスタッフもいます。
今回、「保健師の次のキャリアとしての『メンタルケア』」と題し、保健師経験のあるスタッフ2人に、保健師時代の経験や転職についての話を聞きました。この記事では、その様子の一部をお届けします。(聞き手:コモレビの前田、伊藤)
保健師は「つなぐ」役割を担う だからこその葛藤も
--保健師時代の仕事について教えてください。
柴田建さん(以下、柴田):保健所では、精神保健だけでなく母子保健や難病などさまざまな分野の訪問を担っていました。たとえば新生児訪問に行った後に精神障害のある方の訪問に行くケースもあり、さまざまな人に接することができるのが保健師の仕事のいい点だと感じていました。
また、数十年未受診で診断もついておらず、他人と会うのも何十年ぶりという方もいる中で、どう医療につなげていくか、どう家族をサポートしていくか、を考えるのは保健師としての力量が問われる興味深いところではありました。
ただ、保健師は「間の支援」が多いです。そのため、特定の人と直接かかわり続けるというよりも、別の支援者や支援機関に「つなぐ」役割が多く、そこから先の支援に携われないもどかしさはありました。
--ありがとうございます。髙橋さんはいかがですか。
髙橋海帆さん(以下、髙橋):保健所では、精神保健と成人保健を担当していました。中でも精神保健福祉法の「23条通報」といって、精神疾患のある方が自傷・他害をして通報され、警察官に保護されたときに、保健師としてご本人のところへ向かい、入院が必要かどうか、どう治療を受けたらいいかなど、医師と相談して方向性を決める役割を2年半ほど担っていました。
近所の方から情報を得て訪問することも多く、ご本人からは「自分は希望していないのに、行政が勝手に来た」と拒否されることも多かったです。とはいえ行政として住民の方からの情報に対してアクションを起こさなければならず、「ご本人の精神状態を守るため」と無理やり理由をつくって受診してもらうこともありました。
そういうわけで、行政の保健師は、「無理やり入院させられた」「強引に病院へ連れていかれた」とどうしてもご本人から憎まれる立場です。そのため、その方が退院して状態が良くなっても、生活の中に入った支援をしにくいと感じていました。
柴田:保健師は、苦情を言っている人のことも、ご本人のことも守らなければならない仕事ですよね。
髙橋:そうですね。でも振り返れば、ご本人はどういう思いでそういう行動をしていたのか、もっと楽に過ごせる方法があったのではないか、と思います。当時は「これでいいのか」と迷いながらやっていました。
「かかわり続けるため」「重症化予防のため」の訪問看護
--お二人とも、現場で抱えていたもどかしさや葛藤が、精神科訪問看護という選択肢につながっていくのでしょうか。
柴田:そうですね。「間の支援」ではなく、「特定の人にかかわり続けることがしたい」と考えたときに、それを「地域」でやるとなると「訪問看護」かなと思いました。
髙橋:私はご本人やご家族を見ていて、「そんな(23条通報される)状態になるまで地域で生活するのは苦しかっただろうな」「その前にもっと地域で何かできることがあったのでは」と考え、精神科訪問看護に転職することを考えました。
「利用者さんとしっかり『対話』したい」から、コモレビを選んだ
--たくさんある精神科訪問看護の中で、コモレビを選んだのはなぜだったのでしょうか。
柴田:複数の精神科訪問看護の面接を受けましたが、コモレビが一番しっかり利用者さんと話せると思って選びました。
髙橋:他の事業者さんだと服薬確認や外出支援などを中心としていることが多い中で、コモレビでは「対話」をしっかりして、その人に合った生活方法を見つけていくことを強みとしていたからです。私もコモレビで働いて、そういう支援の方法を身につけたいと考えました。
「その人らしい生活のため」のコモレビの支援
--コモレビで働いてみて、印象的だったことはありますか。
髙橋:不安障害のある利用者さんの訪問に入った時に、最初は「漠然とした不安がある」「何が不安なのか分からない」とおっしゃっていたのですが、対話を通じてかかわり続ける中で、最近は「人混みが不安」「人混みのどういうところが不安で、どうしたらいいか考えられるようになった」と自分で整理できるようになっていて、対話する意味を感じました。
対話を続けることで、利用者さんが自分の生活を振り返って気づきを得る、自分に合う対処法をみつける、その支援をするのは楽しいしやりがいがあります。今コモレビで、ご本人を中心として対話できるという環境にはやりがいを感じています。
柴田:以前は訪問看護に入ること自体がむずかしかった利用者さんのケースです。状態が少し回復してから訪問に入るようになり、数カ月対話を重ねるなかで、「調子が崩れたときにどうするか」という具体的な対処法を一緒に考えられるようになってきていました。
かかわり続けるなかで、「前の訪問のときよりも状態が悪くなってしまったのでは」と感じたときは、玄関先で短時間だけ、これまでの対話を一緒に振り返らせてもらうようにしています。コモレビでは、利用者さんの回復にとって必要なことを対話しながら支援すること、継続して対話を続けることの重要さを常に感じています。
心理的安全性のある組織としてのコモレビ
--組織としてのコモレビはどうですか。
柴田:現場で支援するにあたって、支援者の心理的安全性はとても大事だと思うのですが、コモレビでは「たとえ失敗をしても大丈夫」だと思えます。上下関係を気にしてぎくしゃくすることがなく、同僚の皆さんに「どう見られても大丈夫」だという安心感があります。だから、状態の悪い利用者さんに接するときも、緊張しながらも、余計なことを考えずに支援に集中できる側面はあると思います。
髙橋:同感です。コモレビでは同僚に相談をしやすくて、「ご本人にとっていい生活を送るためにどうしたらいいか」をみんなで考えられる環境が整っています。私は、先ほどお話したように、保健師時代は「その人を医療機関につなぐ」という意識が強かったですが、今はその人らしい生活をおくるにはどうしたらいいか、を考えているところが違う点だと思います。
おわりに
柴田さんも髙橋さんも、かつて地域で次の支援につなげる「間の支援」を担っていたと話してくれました。つなぐ役割だからこそのやりがいもありましたが、そこで感じた疑問や「もっとご本人にかかわってみたい」という思いから精神科訪問看護への転職を考え、現在コモレビで働いています。
この記事を読んで、保健師・看護師の皆さんはどんな感想を抱かれたでしょうか。ご自身の次のキャリアとして、精神科訪問看護やコモレビにご興味を持ってくださった方はぜひこちらからお気軽にお問い合わせください。30分のカジュアル面談や個別説明会も随時行っています。